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8月16日講演会と総会を開催しました。報告2

  • 執筆者の写真: uaeldercarejp
    uaeldercarejp
  • 2025年8月28日
  • 読了時間: 12分

更新日:2025年12月28日


続いて小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授の講演後質疑応答編です。ここでも軍事専門家ならではのお答えをいただきました。国土が狭い日本で”有事”に備えるとは(戦略重心という考え方)、ウクライナ戦争での戦術核使用の可能性、プーチンの執着、など我々の想像を超えた話になりました。




<質疑応答>

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授


【質問1】

昔、日本に再び徴兵制が導入される時期が来るんではないか、と思っていたことがあります。自衛隊員募集への充足状況は十分ではなく、日本を取り巻く国際政治が不安定化する傾向を懸念します。


(小泉)

●21世紀の古典的戦争

10年、15年前までは考えなかったような、国を守るといった話を考えざるを得ない面も出てきています。そうなると、今の工作機械を送る話も含めて、このウクライナの戦争に日本としてどうしていくのか。この戦争は非常に古典的な戦争だと思うんです。例えば、ロシア軍が年間撃つ弾薬数は約1000万発、1日3万発撃つんですね。陸上自衛隊の弾薬庫が1週間で空になるペースです。これを3年間続けているのはお化けのような軍隊ですよ。人間もものすごい数を集めて死なせ、24時間稼働の工場が戦車を作りっていう100年前に見たような戦争を21世紀になってやっている。こうなるとはウクライナも思っていなかった。ウクライナは確か2013年秋を最後に徴兵制を廃止しているはずです。でも、その半年後にロ

シアが攻めてきたので、慌てて2015年から徴兵制を再開し、即応予備役制度を作って、月に3日定期的に訓練を受けさせていた。戦争直前、公表されたウクライナの国防白書では 23万人ぐらい即応予備役を確保していたと思います。

ですから、どのぐらい人間を動員できるのか、どのぐらい兵器を動員できるのかという指標で測られるような戦争がウクライナで起きている。ドローンを使ったハイテク戦争でもあるんだけど、片方においては第一次世界大戦のような古くさい戦争をやっていて、ウクライナはドローン戦争にも動員戦争にも適応できているんです。簡単には負けていない 、でもロシアも適応しているから力比べになって、なかなか戦争の決着がつかずに苦しい状況が続いてるんだろうと思う。日本はこれからどうするか、まず日本とウクライナが置かれた地理的条件の違いは大事です。ウクライナとロシアの間には地理的な障害がない。私も国境を飛行機で飛んだことがありますけど、どこからどこまでがロシアでどこから先がウクライナかわかんない。日本の場合は、地政学的な優位点として周りが海であるということがある、海が大国の戦略を制約する、軍隊が渡って来れにくくなる。これを最大限に生かすべきですね。日本の場合は、兵力を増やすより人間や予算の重点のかけ方を変えるべきなんじゃないか、陸上自衛隊を今の15万人規模で持っておく必要があるか、大幅に削らなきゃいけないんじゃないかと思うんです。 さらに、陸上自衛隊はアメリカの海兵隊に近い感じになんなきゃいけないと思う。ミサイルを中心にして、なおかつ小規模グループで島と島の間を迅速に動き回るような戦い方をする。航空自衛隊や海上自衛隊はロボット化を進めなければいけない、というような話をすることがあります。徴兵制よりもこれを先にやらなきゃいけない。


●戦略重心への対応

もう1つ、日本は狭い国なんです。いわゆる戦略重心が乏しい 。アメリカのアンドリュー・クレピネヴィッチという戦略家が、戦略重心とは、地理的な空間を時間的余裕に変換する ことと定義しています。面積が広ければ、面積を使って時間を稼いでその間に軍隊を再編するとか、住民を避難させるとか、工場を疎開させるとか、戦略的優位を作り出すための時間を稼ぐ。日本はそういう地理的空間が少ない。

私は逆のアプローチができるんじゃないか、時間的余裕を大きくすることで空間的余裕の少なさを補えるんじゃないかと考えます。戦争の兆候があればかなり早い段階でつかむことです。ただ、戦争準備をつかんだ場合、自治体に警告を出せるか。例えば、先島諸島の住民に、島がもうすぐ戦場になるので避難しなきゃダメですって言えるかどうか。おそらくできない。民間企業に対して、例えば中国駐在員をなるべく早く引き上げさせてください、と 自衛隊が警告を出せるか、これもできないですよね。そうであれば、公開可能な民間の情報アセットを使って危機を早期察知する方法を取らなきゃいけないんじゃないかというのが 私の意見です 。

去年から、衛星画像や様々なデータを専門家が分析して、戦争が日本に迫ってる場合には警告を出すという目的で、ディープ・ダイブというプロジェクトを始めました。軍事専門家として、私なりに日本の国土の小ささを補おうとしています。こういう取り組みが民間にたくさん生まれて連携していったら日本の強靭性に繋がるんじゃないかと思っています 。



【質問2】

ウクライナで核が使用される可能性はあるか、ロシアが使用することはどれだけ現実的な話なのかをお伺いしたい。もう1つ、戦争が始まってから三年半経って戦闘の状況は変わっているのか、専門家としてどういうふうに見ているか。ウクライナ現地にいる私の友達とか親戚に聞くと、戦ってる兵士はきつい、地獄だ、何も変わっていないと言っているけれども、実際どうなのかを伺いたいです。


(小泉)

●戦術核使用の可能性

核を使うかどうか。これは戦争の最初からずっと論じられてきた。

不可能かといえば可能性はあるわけです。ロシアは、世界で一番目か二番目に核兵器を持ってる国で、なおかつアメリカより細かく段階的に使うことができる。アメリカが持ってる核兵器は、射程の長い大陸間で飛ばすミサイルか、B61という爆撃機に積んで落としに行く爆弾か、この2種類しかないんです。一方、ロシアはいろんなものに核弾頭を詰めるよう設計しているので、短い射程で小威力の核爆発を起こすようなやり方から射程の長いものを打つことができる。この射程の長い方を使うのはやらなそうですね。これ、やったら第三次世

界大戦になってロシアも滅んでしまう。ヨーロッパのパリとかベルリンに中距離弾道ミサイルの核爆弾を打ち込むようなことをやるだろうか。その脅しはやってます。去年 、ロシアのアストラハンからウクライナのドニプロに向けてオレシュニクというミサイルを打ち込みました。このオレシュニクを今年の後半には「ベラルーシに配備する」とプーチンは言っています。おそらく3000キロぐらい飛ぶと思のでヨーロッパ全体が射程に入るんです。脅しとしてはありえますが、実際には打てないでしょう。

心配されるのは、ウクライナで小威力の戦術核爆弾を戦闘手段として使うというオプションです。戦争の最初の頃に、私はかなり心配しましたが、3年半、彼らは使えていない。おそらくエスカレーションのリスクが大きすぎるという判断になったんだろうと思います。一方で、戦う手段ではない形で核爆弾を使う方法はあるのか、ロシア軍参謀本部の中ではずっと議論されてきた。ロシアにとって望ましい戦争終結が見込めない場合に 、 政治的メッセージとして核爆弾を使うという考え方です。例えば、 黒海上で爆破させるってこともありますし、過去には、演習の時に北大西洋上に核弾頭をつけた巡航ミサイルを打ち込んだことがあります。また、北極海にあるノバ ヤ・ゼムリァ島にロシアの核実験場があります。入手ししうる限り衛星画像で見てるんですが、最近8番トンネルと15番トンネル周辺で動きがあります。ロシアは1990年の11月かを最後に核実験をやってないんですよ。だから35年ぶりに、もしかすると、ここで核実験の再開はあるかもしれないですね。核を使うかどうかっていうのは幅広い濃淡がある問題なんです。私はとても気にしてますし、日本が声を出せるところはあるんじゃないかと思っています。


●前線の戦闘烈度

2つ目は前線の戦闘烈度の問題ですね。兵力配備密度は上がってるんじゃないか、この3年間でロシア側はお金の力で兵士をたくさん集めたので、面積あたりにいる兵隊の数は増えていると思う。今 、ポクロフスクにも10万人集めているという話で、相当の兵力密度です。ただ、この10万人が戦争前のロシア軍の10万人ではない。訓練のレベルであるとか持っている装備品、一番大事な火力密度、この密度が相当下がっている。火力に関しても、さっき年間100万発っていう話をしましたけど、最近は60万発ぐらいまで低下していて、しかもそのうち1/3から半分ぐらいは北朝鮮の弾に頼っているようで、ロシアも、今のような規模での戦争はいつまでも続けられるわけではない。

また例えば、ロシアは年間1300両から1500両ぐらい戦車を喪失しています。でも、1年間にロシアが作れる戦車の数は300両から400両ぐらい。これでも世界で最も多くの戦車を作れる国なんですが 、年間900両から1000両ぐらい足りなくなる。どこから持ってきているか。予備の戦車をためてる基地があって、普段から整備してある状態がいいものもあれば、スクラップ同然のものもあります。ロシアは今回これに手をつけています。工場に送ってオーバーホールしている。エンジンを取り換えたり照準器を取り換え、戦える戦車にして前線に送り出す。これができているから、多数戦車を喪失しても一応補えているわけです。でも このロシアの予備戦車はどこかで尽きるんですよ。どのぐらいで尽きるのか、お

そらくあと1年半から2年ぐらいで枯渇すると思います。嫌な言い方をすると、あと1年半から2年、ウクライナが持ちこたえ続ければ、ロシアは前に出て行く力を喪失する。そこまでいけたら、ウクライナの判定勝ちじゃないかと思っているんです。その前に前線が崩壊しないよう願っています。



【質問3】

今の戦争の形を見ていると、ロシアは航空戦力をあまり使っていないようですが、その理由はありますか。プーチンが満足することはあるのでしょうか。


(小泉)

●陸軍重視の旧ソ連軍

ウクライナ周辺にロシア空軍基地はかなりあります。これをなぜ使わないのか、実は戦争 初期にこの話しは出てきたんです。ロシア空軍は初期の頃活動が低調でした。というのは結局ロシア軍もウクライナ軍も同じソ連軍の子孫なんです。ソ連軍の伝統は、陸軍部隊に分厚く防空システムが付帯していて、高度数百メートルを守る対空機関砲から高度30,000メートルまで届く対空ロケットまで自前で全部持っている。旧ソ連の軍隊はアメリカ軍ほど自国の空軍を信用していないのです。アメリカ軍の場合は、空軍が制空権を取るという前提で行動するので、陸軍はさほど分厚い防空システムを持っていないんですが、ソ連軍はそうではない。

戦争が始まった時、ウクライナ空軍はさらに叩かれて活動出来なくなったんです。しかし陸軍が持っている地上配備型防空システムは叩ききれない。この潰しきれなかった地上配備型防空システムのおかげで2023年春ぐらいまでロシアの戦術航空部隊は自由に活動できなかった。ただ、このころウクライナ軍はソ連製対空ミサイルを撃ち尽くす。そのタイミングで南部に対する反転攻勢をやろうとしたんです。

タイミングが悪かったんですね。ウクライナ軍はもう短距離防空システムを持ってない状態だったので、ロシアはアゾフ海のベルジャンシクに大きなヘリコプター基地を作ってウクライナ地上部隊の進撃を止めました。一昨年秋から去年冬のアウディーウカ攻防戦では相当数のロシア空軍の空爆が確認されています。北方においても、ものすごい回数のロシア空軍による空爆が行われている。ニュースになりにくいだけで、実際にはかなりのロシア空軍の活動を確認しています。

それとは別にロシアの爆撃機の活動についてです。当初、エンゲリスとかシャイコフカとか、欧州地域の主要基地を使って空爆してたんですが、最近はウクライナがドローンを飛ばしてこの辺の基地は危なくて使えないということで、北極圏のオレニャやシベリア、極東カムチャッカ半島にも爆撃機を展開させています。巨大な爆撃機はドローン時代には使いにくくはなってるんだと思いますが、依然として活動は続けています。

海軍が目立たない理由は、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡を開戦2日目にトルコ政府が交戦国の軍艦は通さないと封鎖しちゃったんですね。ウクライナ海軍はもともと1回壊滅してるんでまともに動く船はほとんどないんですけど、ロシア海軍はセバストポリにいる黒海艦隊だけでこの戦争をやらなければいけなくなった。ところが、ウクライナがドローン、巡航ミサイルを撃ち込んで、主力艦艇が何隻かやられたので、もうセバストポリにはいないんです。潜水艦は来ていると思いますけど。


●プーチンは戦争をやめるか

プーチンはどうなったら満足するかですが、アラスカ会談でも明らかになったのは、彼は戦争目的を変えていないと思います。トランプ政権が発足して以降、ロシア側が繰り返してきたのは、紛争の根本原因という言い方です。それ以前にはプーチンはウクライナの非ナチス化、非軍事化、中立化という3点を挙げていた。マイダン革命以降のウクライナ政府はナチスだって言うわけですね。政府が気に入らない、軍隊を持つな、中立でいろと。でもこれはある国の主権を丸ごとロシアが制約しよう、指図しようとする考え方じゃないですか。ウクライナが独立してることが間違いなんだ、というのがプーチンの言い分なので、ウクライナが独立国でなくなるまで戦争をやめる気はないんだと思います。そうであれば、プーチンが何を言おうとロシア軍がもう前に進めないという状況を作るしかないんだと言わざるを得ない。諦めて停戦に合意しなさいというところまで持ってくというのは労力もかかるし、時間もかかるかもしれませんが、現状私は他に道が見えない。

EUもずっと丸がかりの支援はつらいし、どの種類の武器を渡すかによってロシアが難癖つけてくるわけで、ドイツなんかも巡航ミサイルを出してやりたいんだけど、そうするとロシアも怒るからといって、タウルスミサイルのラベルだけ貼り換えて提供するみたいな苦しいことをしています。そうではなくて、ウクライナで現地生産した方が早い、戦車も壊れた場合に例えばドイツまで持って帰って修理するよりは、ウクライナ国内に修理できる工場があった方が早いんです。ドイツは非常に早かったですね。2023年からラインメタル社がウクライナ国内に装甲車の修理工場を作るところから始めて、具体的内容は秘密になってますが、今はいろいろ修理と部品の生産をやっていると思います。ヨーロッパの国々にとって 財政負担は確かに困る、他方ロシアの侵略を見過ごすことが安全保障上問題であるという認識がある限りは、こういう方法で援助を続けるんじゃないかな。ハンガリーみたいに政府がむしろプーチンの方がいいとまで言うようなヨーロッパになった場合はもちろん景色が変わってきますけど、それは次元の違う問題になってくるかなと思います。私、来月ハンガリーに行ってシンクタンクの人達と議論することになってますので、彼らが何を考えているのか聞いてこようと思います。





 
 
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