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8月16日講演会と総会を開催しました。報告1

  • 執筆者の写真: uaeldercarejp
    uaeldercarejp
  • 2025年8月27日
  • 読了時間: 15分

更新日:2025年12月28日


8月16日、会の講演会、総会を開催しました。記念講演では、今回のメインタイトル「ウクライナ戦争:その背景と今後」にそって小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授にお話しいただきました。ニュースやメディア報道ではなかなか聞くことのできないウクライナ戦争の”真実”に触れるお話で、ぜひPDFファイルを一読ください。一例として、ロシア占領地のドンバスからロシア軍に「志願」させられた兵士が多数戦死していること、ロシアが戦闘に勝っていても戦争に勝てない理由、大国アメリカの政治リアリストの非情さ、などとても興味深い内容です。



<講演>

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授


●歴史書に書かれないこと

皆さんこんにちは、小泉です。

専門はロシア政治ということになってるんですが、実際にはロシア軍事の研究をやっています。今回の催しが重要だなと思うのは、歴史というのはこういう風に書かれない。今のウクライナでの戦争もいつか歴史の教科書に書かれる、でもその時にどういうふうに書かれるだ

ろうか。どの国とどの国が戦ってどっちが勝ったのか負けたのかっていうとられ方になるわけですね。

主人公は大統領であったり、皇帝であったり、何とか連邦と何とか帝国であったりする。歴史の教科書というのは、こういう風にしか書きようがない。だけど実際には生身の人間であるロシア軍やウクライナ軍があって、人が死んでいる。そして生活が破壊されている人達がいて、高齢者のような立場の弱い人達から困窮していくということが起こる。こういうふうに語っていないとあっという間に見過ごされてしまう。戦いの陰で食べ物がなくて飢え死にした人の名前は教科書には書いていない。医薬品が手に入らなくって、医療にアクセスできずに死んでしまったお年寄りの名前も書いてないわけです。我々ができるだけ意識的に記録し続けなければいけないし、気にし続けなければいけない現実だと思います。

その意味で、この会は1人1人に寄り添った貴重な活動をしていると思います。私も依頼された時には二つ返事で、ぜひと引き受けました。


●戦死していく占領地の人々

ウクライナは大きな国です。60万平方キロメートル、日本の1.7倍ぐらい、EU加盟国でウクライナよりも大きな国はないですし、旧ソ連全体の中でもロシア、カザフスタンに次ぐ3番目に大きな国です。

戦争が始まってロシア は、国土の2割を占領しているわけです。トランプは、このロシアが占領している二割をウクライナが諦めれればいい、そうすれば戦争がすぐ終わるという。ここには2つ問題があると思います。

1つは、残念ながら日本の知識人の中にも多いんですが 、たかが土地にこだわっているウクライナ政府がおかしいという言い方をする人がいるわけです。戦争が始まってから何回もこういう言説に遭遇しました。土地は交換可能ですし、あきらめることも出来るかもしれません。問題はこの土地の上には人間が住んでるわけです。およそ600万人取り残されたままロシアの占領下に置かれている。ロシアとしては、このエリアはロシア連邦に併合した、だから国語はロシア語ですよと言うし、2万人以上の子供をロシアに連れ去っているし、2023 年からはこの地域で徴兵を行っています。18歳になった若者たちはロシア軍に入れられて いるわけです。徴兵は戦場には送りませんが12ヶ月経って勤務を終えた後は「志願兵」として戦場に送られる可能性はあるわけです。 実際、ドンバスあたりは2014年からロシアに占領されており、今回の戦争ではここから相当数の人が戦場に行って死んでると言われています。ロシア軍の戦死者の推定は10万人台後半から20万人台前半という結果になってます。このうちの3万人から4万人程度はこのドンバス地域から徴兵された人だろうとみられています。

ロシアのような侵略者に対して抵抗を止めたら、それで平和が戻ってくるんだっていう考えは日本の特殊な戦後的発想なんですよ。占領者に手を挙げたら、占領者からまたひどい目にあいます。プーチンの占領統治に賛成しないというだけで姿が消えてしまったり、殺されてしまったり性的暴行を受けたりしているわけです。ウクライナが占領地域を諦めないのは、その占領地域内に取り残された非人道的な扱いを受けている同胞がたくさんいるからだと私は理解してます。だから、ゼレンスキーが抵抗を止めないからいけないんだっていう議論は的外れだと思いますね。


●プーチンの執着

もう1つの問題はプーチンに、この占領地域を与えたら満足するのかということです。ウクライナよりロシアはもっと広いわけです。ウクライナが 60万平方キロメートル、ロシア連邦は1700万平方キロメートル、だいたい冥王星の表面積と同じぐらい、星1個分あるわけです。ウクライナの十数万平方キロメートルが欲しくて戦争を始めたのかというと、そうではないと思いますし、プーチン自身、プーチンの戦争を支持する人々自身、土地が欲しくてやってんだと1回も言ったことはない。プーチンが繰り返し言ってきたことは、ロシアとはどこまでなのかって話しですね。1991年12月にソビエト連邦が崩壊し、15の独立国家が出来上がります。しかし ロシアは未だにこれらの国々は完全に外国になったとは思ってい ない節がある。といっても、中央アジアの国々は征服したのも比較的近代で人種も違うし、宗教も違うので強く執着はし ていない 。地理的にもアメリカの影響力は入ってきにくくNATOが拡大してくるとかEUが拡大してくる心配がないわけです。この地域が中国とロシアの共同管理になることはしょうがないと思ってる。これ自体傲慢な発想で中央アジアの自主性を無視している。

そう思っていないのがベラルーシ、ウクライナですね。ソ連が崩壊する時にもここは特別なんだっていう言説はあったわけです。例えばソルジェニーツィンという反体制的な作家が 、ソ連が崩壊する時に中央アジアやカフカスはしょうがないんだ、重荷だから捨ててしまえとまで言いました。だけどベラルーシ、ウクライナ、ロシアは中世からルーシ人の3兄弟なので、分裂させてはいけないという感覚を持っている。ちなみにキーウからモスクワまでの距離が765キロ、ミンスク、モスクワ間は670キロ。ミンスク、キーウが 440キロぐらい。旧ソ連のスラブ民族の国3つは、近い距離で存在し、歴史的にも確かに近いんですね。だからロシアの民族主義者達は、ソビエト連邦が崩壊するのはしょうがないけど、これだけはなんとかならないのかって言ってきたわけです。

でもソビエト連邦憲法では、ベラルーシもウクライナもカザフスタンもバルト三国もロシア連邦もそれぞれ一つの独立した社会主義共和国であるとして、連邦から離脱しても良いと書いてあった。実際1991年ソビエト連邦解体時の根拠はこの憲法なんです。だから同時代的に新聞、テレビで見た方はその時「ソ連崩壊」って言ったはずなんです。日本の教科書でも確かにソ連崩壊って書いてあったんです。

でも今、お孫さんが使っている教科書ではソ連崩壊ではなくソ連解体と書いてある。なぜか、構造が崩れて壊れるのが“崩壊”です。だけど当時あったソ連憲法の規定に従って分離していったわけで憲法に書いてないことはやっていないわけです。ウクライナもベラルーシもロシアとは別々の主権を持っていて、ソビエト連邦に属していたけれども、出たかったら出てもいいよと書いてあるから、それに従って解体された。だからロシア人はこのソビエト連邦の崩壊のことを 「 文明的な離婚 」って言うわけですね。今回の戦争を始める1年前にプーチンが書いた論文は、まさにこのソ連崩壊の手続きを問題にしている。

第1に、ソビエトの中でロシアとウクライナを別々の共和国にしたことへの不満を語っている。ウクライナ人はロシア人の一部であったのだから別々の共和国になるのはおかしいと言うわけです。第2が、ソ連憲法の中に各共和国は独立する権限を持つなんていうことを書くべきではなかったと言っている。

この2つが組み合わされると、ウクライナはロシアから独立していくことが可能になってしまう。1991年、実際それが起きたんだというのがプーチンの主張です。これをプーチンは「レーニンの時限爆弾」と言っています。レーニンたちソ連の指導部が昔おかしなことを言ってしまったから70年後に爆発して、ウクライナが我々の支配から離れていったというわけです。

なぜこういう話をしているか、それはプーチンの戦争目的は土地ではないだろうと思うからです。レアアースが埋まってるから欲しいとかであればまだ妥協の余地があるわけですよ。けれども、プーチン自身が言ってる話に基づくと、ウクライナ は ロシアの一部でなければいけなかったのに政治的手違いで独立してしまった、それが面白くないという感覚が根底にあると思いますね。そこに地政学的な恐怖心が加わると思います。東ヨーロッパの社会主義陣営がまず1989年に軒並み崩壊して、ソビエト連邦も崩壊して防衛線が一気に近づいてきた。日本の言論の中で西側が悪いっていうのもあるんです。西側がNATOを拡大してロシアを追い詰めたからウクライナに戦争を仕掛けることになったんだ、これはロシアの自衛戦争なんだっていう人もいるわけです。しかし戦争が始まる前、ウクライナをNATOに入れようと誰が真剣に言ってたか。 2014年前まではどのウクライナの世論調査を見てもNATO加盟には反対の声の方が多かった。でも2014年にロシアがクリミア半島を占領してドンバスも攻めた。ここで初めてNATO加盟が必要だっていう声が過半数を超える。しかし入りたいと言ってもすでにロシアとの戦闘が続いてる状況ですから入れない。ドイツもフランスも冷淡だったし、アメリカのオバマ、第1期トランプ、バイデンいずれもウクライナをNATOに入れようとはしてこなかったから、そもそもウクライナがNATOに入る見込みはなかったわけです。

しかしスウェーデン、フィンランドが今回の戦争中、NATOに入ったんです。ロシアとフィンランドの国境は1300キロ以上あります。これまではフィンランドが中立国だから安心だったわけです。フィンランドと国境を接するカレリア地方にはほとんどロシア軍部隊はいなかったと思います。その方面には、ムルマ ンスク港にロシア軍最大の潜水艦基地がありますが、その近くまでNATOが拡大してきた。プーチンの理屈で言うとスウェーデンやフィンランドにも戦争を仕掛けないとおかしい、でもそうはなってない 。 今すぐ NATO に入る話 が でていない ウクライナに対しては戦争を仕掛けるのはチグハグな感じがします。や はりウクライナに対する執着があってやってる戦争という感じがするわけです。

そこにトランプが乗り込んできて、この土地は諦めなさいとかレアアースの共同開発が云々とか徹頭徹尾金の話なんですね。トランプさんは生粋の不動産屋さんです。 彼がロシアとの交渉にあたらせてるウィトコフも不動産屋さんだし、ロシア側のカウンターパートのドミトリエフ、元は不動産屋なんです。

しかし、肝心の戦争をやらせてるプーチン自身はそういう発想でやってないんじゃないかっていうのが、私の考えです。そう考えるとなかなかこの戦争終わんないだろうと思います。


●戦闘と戦争のパラドックス

ロシアは、戦場では過去二年間ずっと勝っている。それをもってウクライナという国そのものに勝ってることになるかどうかは、全然別の問題です。これが昔から特に大国の軍隊において問題になってきたパラドックスです。例えば大日本帝国はかつて中国大陸を侵略して1つ1つの戦闘では勝っている。

中国の八路軍とか相手に勝つんだけど中国という国そのものは屈服させられない。アメリカがベトナムまで行って中規模以上の戦闘すべてで勝っているけどベトナムを屈服させられていない。戦闘と戦争の間に見落とされがちな中間層がある。アメリカはソ連の軍事思想史を研究して、この間に作戦術オペレーショナル・アートという階層があるんじゃないかっていうことに気づく。この戦闘と戦争の間にある階層は、もともとソ連の軍人たちが発見したんですけど、ロシア人自身もう忘れている。彼らは1980年代にアフガニスタンで非常に苦しむわけです。全ての戦闘でアフガニスタンのムジャヒディンに勝ってるのに、なぜ我々は勝てないんだとソ連の軍人達も悩むわけです。それから30年後にアメリカやイギリスがアフガニスタンに攻めていますが、やはりムジャヒディンに勝てない。

このことをエミール・シンプソンというイギリス軍最強の外人部隊であるグルカ兵の元将校が本にしている。ヘリコプターでぱーっと入ってムジャヒディンの村を包囲して皆やっつけちゃう。それを繰り返しているから勝っていると思うけど、なぜか状況が悪化していく。最初彼は理由が分からない。シンプソンは帰国してから大学院に入り、戦闘と戦争の間に別の階層があることを発見して本を書いています。おそらく今ロシアも同じようなジレンマの中にあると思います。1つ1つの戦闘に勝つために払っている犠牲がものすごく大きい。アメリカ軍の見積もりでは、ロシア軍の救命率は 1:3ぐらいだから、仮にロシア軍の戦死者を20万人とすると60万人ぐらい重症者が出て全体では80万人ぐらいの死傷者をこの3年間で出している。第2次世界大戦後のヨーロッパで間違いなく最大規模の消耗を伴う戦争をやっている。とてつもなく金もかかってます。ロシア連邦予算のだいたい1/3で平時の4倍ぐらいの国防費を出しています。戦闘でものすごく高コストな勝ち方をして、どこかの時点でウクライナが屈服すれば、ロシアが戦略目標を達成したということになるんですけど、そうなるようには見えない。

どこかで前線の突破が起こるんだろうかと懸念し続けてきました。突破が起こってしまうと、防御組織が崩壊してロシア軍が止めどもなく入ってきてしまう。ただこの3年間、驚くべきことに、ウクライナ軍は防衛組織の崩壊を起こしていない。前線の形を保ちながら後退をしているんで驚いています。

この1週間、東部ポクロフスク北方でロシア軍が躍進したので、大規模な突破だったら目もあてられ ないなと肝を冷やしていたんですが、ロシア軍の最先端を抑えることに成功したように見えます。引き続きウクライナの抵抗は可能なんだと思ってますし、可能ならしめないといけないですね。この戦争はロシアの明白な侵略です、侵略に成功するという歴史は残したくない。ウクライナの人たちのためにもロシアが成功してもらっては困る。ウクライナが主権を保った形でこの戦争を終わらせる、ウクライナの国家主権に対するロシアの干渉を跳ねのける形でこの戦争を終わらせることを何としても目指さなければいけない。


●大国アメリカの政治は日本に返ってくる

同時に、日本の安全保障にとってもこの戦争の終わり方は非常に重要なんだと思います。この戦争の中で自称リアリストという人たちが出てきた。特にアメリカの国際政治学者の中のリアリストは、大国間戦争を抑止するためにはどうしたら良いかって考える。アメリカは大国だから中国やロシアのような大国とは戦争したくない。そのためには大国同士がどこで線を引くか、手を結ぶか、場合によっては融和をしてでも戦わないためにどうするかってことをリアリストは考えるわけですね。ペンタゴンの中にいる人たちや大学の中の人たちは、ロシアに厳しく出て彼らを抑止することを考えるんですけど、ある時になると、あっさりとロシアの要求を聞いて仲良くやると考えるんです。彼らにとってはどちらも選択肢なんです。場合によってはウクライナを見捨てることも政策オプションに入っている。私は日本の軍 事専門家としてこの議論に乗っかれない。なぜかというと、日本はアメリカのような意味での大国ではないから。中国のような国でもないしロシアのような国でもないので、大国間で戦わないために、中小国には泣いてもらいましょうって議論に乗っかると、結局日本には申し訳ないけどごめんねっていうふうに言われる可能性がある 。

今ウクライナが、ロシアという大国の侵略を受けていて、そこにアメリカという更に強力な国から身勝手なことを言われている。いろんな意味で日本にかぶさるわけですよ。我々がウクライナに対してどういう態度を取るのかは、最終的に日本に返ってくるんじゃないか。 大国の目線に憑依して、ウクライナはしょうがないんだから諦めなよ、というような言い方をすると、どこかの時点で我々自身がそういうふうに言われるような世界を作っちゃってるんじゃないか。そうならないようにするためには、大国が国力、軍事力にものを言わせて侵略しようとしても、それは高コストだし、最終的に戦略目標は達成できませんでしたよね 、という歴史を残した方が皆にとって幸せなんじゃないかと思う。それができれば、こんな野蛮蛮な戦争をやってるわけですけど、せめて2020年代の人間として誇れる歴史に出来る

んじゃないかと思うわけです。ですから、この会がウクライナ高齢者の支援をされているのは立派な活動だと思います。


●陣地戦へ向けて

日本から軍事支援はできないけど、それでもかつてない規模で支援をやってるんです。今私が働きかけてるのは、ウクライナにブルドーザーとかパワーシャベルとか建設重機を送れないかって話です。残念ですが多分この戦争が終わるまでウクライナ軍が攻勢転移、守りから攻めに移ることは難しい。基本的に守勢に回らざるを得ない。その時どうやって持ちこたえるかって言ったら陣地掘るしかないんです。21世紀においても、陣地の有効性は非常に高いのです。陸上自衛隊は世界的に見ても陣地を掘るのが得意な軍隊です。自衛隊が持ってる工兵機材、日本のメーカーが作ってる重機を大規模にウクライナに送れないかっていうことをあっちこっちで話ししています。日本の支援でウクライナの苦しい戦場を安定させられるのであれば、それは大国ではない日本が大国ではないウクライナに対して、大国の意のままになる世界ではない世界を作りましょうというメッセージになるんじゃないでしょうか。





 
 
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